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どうしてISILが政争の道具になるのか?」



有志連合の足並みがそろわないというか
いまいち盛り上がらないのは
もちろんアメリカが積極的でないからで
一部の好戦的な人たちはもどかしい思いをしているのでしょう

まぁそんなことは分かりきっていることなのですが
この記事の面白いところは共和党のスタンス
共和党は現在上下院を制しているにもかかわらず
攻めきれないのはこの点にあるのでしょう
つまり民主党共和党の明確な対立軸がないということ

まぁそのこともみんなよく分かってはいたのですが
この記事はとても論点が分かりやすいので
全文引用します



『from 911/USAレポート』第684回
「どうしてISILが政争の道具になるのか?」
■ 冷泉彰彦:作家(米国ニュージャージー州在住)

 オバマ大統領の支持率は、2009年の就任時は65%ぐらいの圧倒的な数字だったのが、どんどん下がって2010年以降はほとんど支持と不支持が均衡していました。その結果として、2010年の中間選挙では惨敗すると同時に、右派ポピュリズムのグループである「ティーパーティー」の躍進を許し、2012年の選挙では辛勝して再選されたものの、2012年の中間選挙では再び惨敗して、これで上下両院共に共和党が多数という事態に追い込まれています。

それが、今年、2015年の年明けの1月には久しぶりに上昇基調になりました。理由としては「年末に行った不法移民救済策、キューバとの関係改善」が世論に評価されたこと、そして「さすがに失業率も株価も良い水準になった」ということで、一気に「オバマ復活か?」ということになったのです。

ちなみに、移民問題に関しては「完全ねじれ議会」の中では一々法案を通すのはほとんど不可能ですので、「大統領令(エグゼクティブ・オーダー)」で突破するという強行策に出ています。実は、これを中間選挙前にやっておけば選挙結果は違ったかもしれないという「if の話」もあるのですが、それはともかく選挙で負けたので「怖いものがなくなった」こともあって強行した、それが世論には認められたという格好でした。

ところが、良かったのは1月だけで、2月に入るとオバマの支持率は再び低下傾向になってきました。その原因としては、ISILの問題があります。1月に日本人人質事件があって結果は最悪のものとなりました。これに続いて、ヨルダン人パイロットの「焼殺映像」があり、アメリカ人女性の人質カイラ・ミュラーさんの死亡が確認され、更にはエジプトの少数派キリスト教コプト教徒に対する集団斬首の映像が出てきています。

更にこれにデンマークでのテロ事件も加わっていますし、ISILは「西側の腐敗した文化の象徴」だとしてドラムセットを焼却する映像を流したり、連日のようにネガティブなメッセージを発信し続けています。

一方でヨルダン空軍は自国パイロットの死亡への報復として、またエジプト軍も、コプト教徒惨殺への報復として、それぞれシリア領内とリビア領内のISIL拠点に対する空爆を行っています。

こうした情勢に対して、オバマは議会に対して「必要に応じて地上軍派遣も可能にするような議会決議」を行うように要請しているところです。そうではあるのですが、実際のところは米軍(陸軍もしくは海兵隊)が正面から陸上戦闘に出て行くことは考えにくいというのがオバマ政権の立場です。

何よりも、アフガンとイラクの戦争の傷がまだまだ深いアメリカ社会にとって、また費用負担という意味からもそれは「不可能」だというのがホワイトハウスの認識であり、具体的には「せいぜいが、軍事アドバイザーとして、イラク自由シリア軍の陸上戦闘を背後から支援したり、武器供与を行う」ということが「最大」であると見られています。議会に出された決議案もそうした方針に沿っています。

ですが、とにかく毎日のように「日替わりでの挑発ビデオ」が出てくる一方で、アメリカとしては議会とホワイトハウスがケンカをしており、それ以前の問題として国全体としてはまだまだ「戦争全般に対する抵抗感」が強い、その結果として「ISILとアメリカ」という「対決構図」を考えると、「上手く行っていない」という印象になるわけです。

この2月に大統領の支持率が再び低下しているのは、そのような事情があります。

さて、議会での決議問題ですが、かなり綱引きが激しくなっています。構図としては、民主党内は割れています。例えばイラク戦争の退役軍人の中には「もうこれ以上、不毛な戦いを続けてPTSDで苦しむ人を出さないで欲しい」というような声があり、民主党左派にはこのような観点からの反対論があります。

一方で、民主党内には人道主義からの「難民や被迫害者救済」を目指す立場もあり、こちらは軍事支援には積極的です。

問題は共和党です。ブッシュの時代には共和党は「一国主義的な軍事行動」を積極的に推進する立場でしたが、現在は様相が違ってきています。例えば、「ティーパーティー系」や「リバタリアン系」の若い世代には「軍事費を聖域としない」小さな政府論があり、これにアメリカ保守の伝統である孤立主義が重なっており、海外での軍事行動には極めて消極的です。その反対に、軍事タカ派というグループも依然として長老議員を中心に、ある程度の存在感は保っています。

その中で、この「軍事費も聖域としない小さな政府論」と「軍事タカ派」の両者をミックスしたような、「右派のポピュリスト」という立場もあります。共和党内で、そうした声がかなり大きくなっているようです。

というのは、上下両院を制している共和党ですが、ホワイトハウスでは民主党政権が頑張っているわけです。ですから、どんな法案を通しても大統領拒否権でブロックされてしまうわけで、そこを突破していかないと自分たちの政治的な存在感は示せないわけです。

例えば、共和党右派の「悲願」であるオバマの「医療保険改革の廃止」については、何度も法案化や決議に動いているわけですが、大統領の拒否権を考えると、踏み込めないわけで、そのように一本調子に攻め立てても、世論からは好印象で見てもらえないわけです。

そこで、結局のところは「2009年から2014年」まで延々とやってきた、大統領を「サンドバッグにする」という作戦が、再度見直されている、そんな雰囲気が現在のアメリカの政局になっています。要するにこの2月に関して言えば「対ISIL政策でオバマは失敗している」というイメージを利用して、大統領の悪印象を拡大しようという作戦です。

まず標的になったのがワシントンで行われた「テロ対策サミット」における、2月18日のオバマ大統領のスピーチでした。内容は全く問題はなく、大統領としての姿勢もISILへの非難の言葉も全く不自然ではありませんでした。ですが、このスピーチに対して、共和党側から「イチャモン」がついたのです。

こういう時に出てくる「いわば斬り込み役」としては「いかにも」という感じで登場したのは、テッド・クルーズ議員(上院、テキサス州選出)でした。クルーズ議員は「大統領がISILを『イスラム過激派』と呼ばなかった」ということ、そして「アメリカはイスラムと戦っているわけではない」と述べたことを問題視しました。

大統領のコメントは「当然過ぎるほど当然」なのですが、クルーズ議員としては「これは謝罪型のスピーチで許せない」ということになるのです。かなり強引な批判ですが、問題はこのクルーズ発言に即座に飛びついて同調する動きが出てきたことです。

それは、元ニューヨーク市長のルディ・ジュリアーニ氏でした。ジュリアーニ氏は、ウィスコンシン州スコット・ウォーカー知事を囲む共和党内の「内輪のディナー」の席上で演説し、そこでオバマ大統領のことをこう非難したのです。「大統領はこのアメリカを愛していない」「少なくとも我々がこの国を愛するのとは違うようだ」つまり、2008年の大統領選の際によく言われた「オバマ愛国者でない」というレトリックです。

ジュリアーニ氏の発言は巧妙に練られていました。「オバマは、この国が世界で例外的な国だということを認めていない。このアメリカは、大勢の若者を戦争の犠牲として失っていながら、一寸たりとも領土を拡大していない。つまり植民地主義とは無縁の存在だ。そのようなアメリカへの愛は、例えばクリントン(ビル)にも、カーターにも感じるがオバマには感じない」というのです。

その証拠としてジュリアーニ氏は「オバマは宗教が野蛮な行動になる例として、十字軍やレコンキスタカトリックによるイベリア半島でのイスラムからの失地回復運動)を挙げている。要するにキリスト教でなく、イスラムの味方なのだ」とまくしたてました。同時に「(自分がNY地区検事の際に手がけた)ユダヤ系への迫害行為への摘発」に関しては胸を張ったのです。

要するに、カトリックユダヤ系の多いNYの共和党支持者を前にして、自分は、そして同席しているウォーカー知事は味方だが、オバマはそうでないという非難でした。ジュリアーニ氏といえば、2001年の「911テロ」では、被災後のNY市の危機管理と復興に功績があったのですが、2008年の共和党予備選では大統領候補の座に強い意欲を見せていながら早々に撤退に追い込まれています。

要するに「予備選序盤の保守州」では「NY市長時代に妊娠中絶を認め、同性愛を認め、銃規制を認めたのは真性保守でない」と叩かれ、同時に「不倫の果てに再婚した」という個人的なバックグラウンドまで攻め立てられて国政への道を閉ざされたのです。

その時の恨みを晴らすかのような執拗なオバマ批判は、全国的に話題になりました。同席していたウォーカー知事には「あなたもジュリアーニ発言に同調するのか?」という質問が後に浴びせられていますが、その辺は老獪なウォーカー知事です。自分のウィスコンシンという州は「オバマを罵倒するに青過ぎる(民主党色がある)
」ことから、オバマが「愛国者かどうか?」という問いには乗らず、その代わりに「不法移民の合法化は、犯罪者への無秩序な恩赦」だという保守レトリックを使ってオバマ批判をしています。

ちなみに、私は、ここで「共和党ポピュリズム」を批判しようという主旨で、このような政争をご紹介しているのではありません。また、オバマを擁護しようとしてわけでもありません。

では、どうしてこのような政争が起きるのでしょうか?

現在のアメリカにとっては、要するに「ISIL」というのは「遠い世界」なのです。仮に人質のミュラーさんが殺されても、あるいは日本人2名が殺され、ヨルダンのパイロットやエジプトのコプト教徒が惨殺されても、アメリカは憤って見せることはしますが、所詮はそこに「距離感」があるわけです。「絶対的な当事者」として、売られたケンカは「すぐに買う」わけではないのです。

この点に関しては、ホワイトハウス共和党も「同じようなもの」です。オバマの方は一方で強硬な内容(に見える)決議案を議会に送りながら、その実は直接的な関与は避ける方向で外交工作を続けています。

共和党はそんなオバマを「弱腰だ」とか「愛国的でない」などと批判していますが、批判のレトリックが尽きると急に「不法移民の合法化がケシカラン」などという「別の話題に振る」ことも自然にやって来るわけです。ということは、共和党も決して「ブッシュ時代のタカ派的な共和党」ではないのです。要するに全体としてアメリカは「ISILとの全面戦争モード」ではないということが言えます。

日本のテロ対策なり、中東における難民支援を初めとした政策を考えていく上で、このことは非常に重要です。

これに対して、何よりも連日のように繰り出されてくるISILの「ビデオ」は、そのアメリカを何とかして引きずり出したいという「挑発」であるわけです。そして、オバマも、共和党もそれが挑発であることは、十分に理解しているように思います。

もっと言えば、世論調査で出てくる「オバマはISIL対策が不十分」という声も、「聞かれたらそう答える」というレベルを大きく出るものではないと思います。ちなみに、地上戦闘への賛否ということでは、世論では依然として「反対」がやや上回る状況です。

要するにアメリカは、このISILの問題が「即座に解決可能な問題ではない」ということを、ホワイトハウスとしても、世論としても理解しているのだと思います。仮に、この問題の当事者的な視点に飛び込んでしまうと、そうしたアメリカの態度は煮え切らないように見えるかもしれません。ですが、度重なるテロや戦争を通じて、「性急に判断した結果の失敗」を繰り返してきたアメリカは、その傷の中から少しは学んでいるのです。

その意味では、現在のアメリカはブッシュ時代の「カウボーイ的なアメリカ」ではありません。派手な言葉の裏には慎重な計算があるのです。オバマの一見すると強硬な姿勢にも、共和党タカ派的な言動にも、そうした二重性があることを忘れてはなりません。